子育て

歩行器赤ちゃん用蚊帳(かや)乳母車おまるカタカタ乳幼児用はかり 木馬

 

歩行器

  写真は、昭和20年代から30年代頃に使われていた歩行器である。 歩行器の中に宙づり状態でいすが付けられており、座ったり立ったりが自由にでき、安心して歩行練習ができる。木製でキャスターが付けられており、前方には小さなテーブルも付いている。  歩行器は、家の中で使われることがほとんどで、畳の部屋でも縁側でもお構いなしに歩行器で動き回ることで、よく床に傷がついたようだ。   子どもにとって歩行器での練習は、とても楽しい乗り物に乗っているような感覚だろうか。ある程度、歩行ができるようになると、次は「カタカタ」の出番である。歩行器は家の玄関先くらいまでは出られたが、カタカタを使うことで、その活動範囲は庭じゅうに及んだ。

ちゃん用蚊帳(かや)

写真は、赤ちゃん用の蚊帳で、昭和20年代後半から30年代にかけて使っていたということだった。緑色の麻製の生地に赤白の金魚が描かれている。同種の蚊帳で鯉や亀など縁起物が描かれているものも目にしたことがある。 夏の暑い時期、蚊帳に描かれた水面の波紋やゆったりと泳ぐ金魚は、涼しさをかもしだすことだろう。 さて、蚊帳といえば夜、就寝する際に入るものであるが、この赤ちゃん用の蚊帳は、どちらかといえば赤ちゃんが昼寝する時、蚊に刺されるとことを防ぐ道具であった。 使い方は、たたまれた状態のものを雨傘のように開いてかぶせるというもので、類したものに、食卓に置かれた食べ物などを蝿から守る蝿帳(はいちょう)がある。 帳は、部屋の上部から布などをたれ下げて、隔てる道具という意味があり、蚊帳は蚊を蝿帳は蝿をということなのだろう。


 
 

乳母車

縁起物のデザインで大きなサイズが特徴

 ツル、亀、宝船。縁起物で祝福、幸せを表す伝統的な図柄だ。写真の乳母車は昭和30年前後に使われていたが、側面には亀と宝船が編み込まれ、着色されている。子どもの健やかな成長を願う気持ちを象徴するデザインと言える。  30年代の後半には、スチールパイプの骨組みに、ビニール製のカバーを取り付けた乳母車が主流に。昭和も終わりに近づくと、折り畳み式のベビーカーが大流行し、今日に至る。こうした乳母車やベビーカーには、しゃれた花柄やチェックなどの図柄が用いられるようになり、縁起物は次第に見られなくなった。  この乳母車の最大の特徴は、サイズが大きかったことだ。大きな車輪にスプリングをクッションとしてフレームが取り付けられ、子どもを乗せるかごは、フレームに鋼で宙づり状態で付けられている。  まさにゆりかご状態で安定しており、乗り心地はさぞかし良かっただろう。車輪ばかりでなく、かご自体が2、3人は乗れそうなほど大きい。  乳母車には竹や、籐(とう)など植物のつるが材料として使用されていたため、通気性がよく、日本の風土にも合っていた。  

おまる

使った本人よりも親の方が思い出に

 赤ちゃんが生まれ、子育てが始まると、暮らしの中で使う道具は一変する。子どもが生まれる前と後の生活用品を思い起こしてみよう。家庭の中のモノの変化は激しかったはずだ。  このおまるは、昭和30年代後半に購入され、使わずにしまってあったということで、資料館に提供された。外形は木製のかわいらしい犬で、内側にプラスチックの容器が入っている。  プラスチックが用いられる前は、木の版を組み合わせた木製のおけと同じ作りのものや、ほうろう製などが使われていた。聞いてみると、おまるは使わなかったという人も意外に多い。  昭和30年代以降に子育てをされた方だと、おまるといえば、白鳥の形をしたプラスチック製品を思い起こされる場合が圧倒的だ。このおまるは同36年、「コンビ」から発売された。商品名にも「スワン型」と記されたおまるは、当時1,300円ほどで売られ、子育てに奮戦する多くの家庭で使われた。真っ白な白鳥という清潔感が印象的だった。  育児用品は子どもの記憶には残りにくいが、親の記憶には子育ての大変さとともに残っているのではないだろうか。  


 
 

カタカタ

一緒に歩き始めた品 子にも親にも思い出

 やっと、歩き始めた幼いころ、いつも一緒だったのが「カタカタ」である。いわゆるおもちゃであり、歩行練習器具でもある。単に車を押していくだけでなく、歩くことを楽しみながら練習できるようにと、ウサギや犬などの動物がカタカタという音とともに上下するようになっている。子どものころの写真には、カタカタとともに写っている物がたくさんある。おそらく、歩き始めたことが親にとっても大切な出来事であり、必然的にカタカタを押して歩いている写真も多いのだろう。このカタカタは、昭和30年ごろのものと思われ、車輪の軸も含めて木製である。  資料館には昭和初期と思われるものから、新幹線などが描かれたものまで、6、7点が保管されている。子どものころの “ 初めて ” を語る懐かしい品の一つである。  

乳幼児用はかり

ゾウの背中に乗って成長確認

 銭湯などには、必ずといっていいくらい体重計が置かれている。  私たち成人の体重もさることながら、子どもやお孫さんが生まれたりすると、赤ちゃんの体重の変化に、成長の証しを感じとることができる。この体重計は、乳幼児用のはかりで、昭和30年ごろ、銭湯や産院などに置かれていたものである。お風呂上がりに体重を量って日々成長を確かめる、そういったお母さんの姿がよく見られたとうかがう。  荷物などの重さを量るはかりに愛情を傾ける赤ちゃんを乗せるのは、しのびないが、このようなゾウの形をしたかわいらしい体重計であれば、健やかな発育を確認するのには実に適している。  はかりの目盛りは15キログラムまでで、キログラムの目盛りの内側には、「乳幼児標準体重表」が記されている。生後何カ月、何歳かで標準的な体重と照らし合わすことができ、一目瞭然(りょうぜん)に分かる。  赤ちゃんを乗せる部分にとう製のかごが付けられたタイプをご記憶の方も多いだろう。ゾウさんの背中に乗せて量るという設定が、なにか時代を表しているような気がする。  


 
 

木馬

親の思いやりが伝わってくる

 子どもが生まれて成長していく過程で、親として子どもが大きくなったときに見せてやろうと、残しておきたくなるものがいくつかあるようだ。  そんな話を拾ってみると、産着や写真や手形などが代表的なものとしてあがってくる。また、資料館では実際に使われた物を集めていることから、成長したわが子に見せたかった物そのものを提供いただくことも多い。  その一つが木馬である。この木馬は昭和20年代の後半から30年代にかけて子どもに遊ばせていたものということだった。その子があまり気に入っていたので残しておこうということになったようだ。  子どもが腰掛ける部分は、鞍(くら)状の敷物が傷んだので、小ぶりの座布団をあてて使ったそうで、子どもが愛着を抱いていたこととともに、親の思いやりみたいな気持ちも伝わってくる。  最近は、木馬でありながらプラスチック製が多いが、なかには木の温(ぬく)もりをということで木製も好まれているようだ。  その他、小学校1年生の時の教科書や絵日記、ランドセルなどを残されている方が多い。成長した子どもたちが、その物に対面したときの反応が楽しみである。